2015年03月23日

谷川電話作品評寄稿・かばん新人特集号Vol.6

「かばん新人特集号vol.6」が発行されました。
私は谷川電話作品に評を寄せています。

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谷川電話さんは、2014年度の角川短歌賞の受賞者でもあります。評の中では受賞作の「うみべのキャンバス」についても少しだけ触れていますので、ぜひ谷川さんの受賞作の方も合わせて読んでみていただければと思います。
評の中では才能のある青年に対して、「私自身の生き方の問い」でしかないかのような愚直な疑問をぶつけています。このような事が可能であることも、あるいはちょっと乱暴な問いかけをしてみたいとつい考えるのも、谷川電話さんご自身の力量という土台があればこそと思います。
また、評の中で、私は氏の作品を相当に「私性」の側に引きつけて読んでいます。短歌の私性についてさまざまに議論もされている中で、どっぷり私性に浸かって読むというその姿勢自体が是か否かという問題もあると思いますが、私が読み解いてみたかったのは、角川短歌賞や新人特集号において谷川電話作品に描かれている「今という時代の若者と社会の関係」についてであったと思います。
作品内の主人公を「ある傾向の考え方を持つ人物」と捉えているという点では、ひょっとしたら私は、谷川作品をかなり小説的な読み方をしているともいえるのかもしれません。どうやら、谷川電話さんが描いた二本の作品(受賞作と新人号掲載作)の「主人公」の生き方考え方の反照が、私自身の生き方考え方を浮き彫りにし、再確認を迫るところがあるために、非常に気になるらしいのです。

常識が憎くてたまらない夜に切手に塗ったオレンジジュース

上記は谷川さんの角川短歌賞受賞作「うみべのキャンパス」からの一首。
常識を打ち破りたい、それに負けて社会に埋没したくないという青年の思いがよく表れた青春性を感じさせる歌です。水や唾液ではなくオレンジジュースを塗るという小さな非常識。その反抗に、希望と怨念を託しているのでしょう。オレンジジュースという爽やかながら甘く粘性のある液体と、切手の「何処かに何かを届けるためのもの」という機能が、未来の未知性や不穏を暗示するようです。そしてまた、オレンジジュースのごとき「甘ったるさ」こそが青春なのだと訴えてくるようでもあります。
私はこういった歌に見られる「ある傾向」を持った谷川作品の中の主人公に対して、「わかる、わかるよ」と頷きながらも、ついつい「でも」と考え、そしてこう思ってしまうのです。

「常識に埋没する必要なんて、そもそもいったい何処にあったのだろう?」と。

「常識」なんてものが目に入らないくらいに「抜けていく魂」が、私は決定的に好きです。そういう魂の姿、そうやって生きた表現者たちに対する強い信仰と憧れを、私は持っています。
だからこそ、常識を突き抜ける魂への憧れをにじませる谷川作品の主人公の思いは、ひりひりと迫るほど分かります。でも同時に「なぜ自らの人生の全部を使って“本当に抜けよう”としないのか」という疑問に、自分自身が全身をつらぬかれてしまうのです。

「“抜けていく人々”への信仰と憧れ自体が、自分自身なのだ」
という事を、改めて強烈に感じさせられた。そういうじりじりした青春の焦燥を突きつけてくれたという点において、谷川電話作品は「青春時代」を送る多くの人に読んで欲しい作品だなと思います。今という世代と、今という年齢特有の「揺れ」と「怒り」と「ダメさ」「諦められない思い」がよく描かれているからこそ、私はこれだけ物思いさせられたに違いありません。
人生の分水嶺ってさまざまなポイントにありますから。
そこで「お前はどちらを選ぶのか」を問いかけてくれる作品であると思います。

「本当に抜けるために生きる」という選択は、実はいつでも誰にでも取れるはずで、この世界には未知の可能性が無数に存在しています。
「可能性」を「常識」で覆い、可視の領域から遠ざけさせているのはいったい何者なのか?
それは「社会」なのか?
それとも「そのように考える私やあなた自身」なのか?
社会が共同の幻想として共有を求めてくる「常識」の皮膜をめくり、正体を暴こうとし、そのように念じて未知のものを摑みだし具現化させることが「表現」の本領であるし、可能性そのものであると信じています。
その信仰や憧れを私は捨てることができないし、そのように生きたいという夢を見続けています。
 
最後に、画家、パウル・クレーの言葉を記したいと思います。
クレーは「表現」を通して未知の可能性を探るという「実験」に自らの人生の時間を使い続けた人であり、またその行為について、直感と霊性の冴えた理論を残した人でもあります。

この世の中で、私は十分には理解されることはない。
なぜなら、私は死者か、あるいはまだ生まれ来ぬ胎児とともにいるからだ。
世間の人よりは創造の根源の近くにいるが、まだまだ満足できるほどではない。


----パウル・クレーの日記より、墓石に刻まれた言葉----


 




----「かばん新人特集号Vol.6」詳細 ----

●かばん新人
雨宮真由、伊藤綾乃、川合大祐、川村有史、桐谷麻ゆき、後藤葉菜、酒井真帆、凌山清彦、嶋田恵一、鈴木智子、谷川電話、柊森比呂、とみいえひろこ、ながや宏高、那由多、福島直広、ふらみらり、堀静香、前田宏、ミカヅキカゲリ、水野佳美、睦月都、米村尚子

●ゲスト評者
石川美南、糸田ともよ、江戸雪、奥村晃作、加藤治郎、木下龍也、栗木京子、黒瀬珂瀾、小島なお、小島ゆかり、笹公人、辰巳泰子、田中槐、堂園昌彦、永井祐、西崎憲、野口あや子、服部真里子、林和清、松野志保、松村正直、光森裕樹、米川千嘉子

●かばん評者
(総合評)井辻朱美、佐藤弓生
(各評)雨谷忠彦、あまねそう、飯島章友、飯田有子、伊波真人、入谷いずみ、久保芳美、久真八志、佐藤元紀、陣崎草子、高柳蕗子、田中ましろ、千葉聡、辻井竜一、伴風花、東直子、藤島優実、穂村弘、三澤達世、柳谷あゆみ、山下一路、山田航、若草のみち

●自由作品
後藤葉菜、那由多、福島直広、ふらみらり、ミカヅキカゲリ


かばん新人特集号vol.6
価格:650円(送料込)
お申し込み:tokubetsu◎kaban-tanka.jp(◎をアットマークに替えてください)まで
件名:新人特集号vol.6購入について
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タグ:短歌 評論
posted by 草子 at 02:56| 短歌、詩