2016年03月25日

装丁画・『短歌ください 君の抜け殻編』(穂村弘・著)

装丁画を担当させていただいた本が刊行されました。

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『短歌ください 君の抜け殻編』(穂村弘・著、KADOKAWA・刊)

本の雑誌「ダ・ヴィンチ」誌上で長期連載(なんと8年目!)されている人気コーナーの書籍化第三弾です。
歌人の穂村弘さんが、投稿された歌に評をつけておられます。投稿歌人の方々の中には活躍目覚ましい方も登場され、短歌の新しい門を開く才能が集まる場ともなっているようです。
装丁デザインは一巻、二巻に続き川名潤さんがご担当くださり、素敵なデザインにしてくださいました。

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今回帯に選ばれた、ほうじ茶さんの短歌は本のサブタイトルにもなっています。
ハッとする発見のある、妖しい愛の歌ですね。「抜け殻の君」には現実がにじみますが、「君の抜け殻」には非現実への憧れが輝きはじめることの不思議に気づかされます。「魂の抜けたような」という言い方がありますが、これはいったいどのような状態をさしているのか、言葉の意味の再考をせまられるようです。
現実的な苦労から鮮やかに逃げきってやろうとする悪女めいた感触もあり、しびれます。

興味深いのは、本書の中ではこの歌、穂村弘さんの評がずいぶんあっさりとしているんです。
最終的に本として編んでゆく過程で、歌の強さが浮きあがってきたのでしょうか。

また、『短歌ください』のもうひとつの特徴として、「お題」そのものに注目するのもおもしろいように思います。これらのお題にはおそらく、評者である穂村弘さんご自身の関心や問題意識が投影されています。
穂村さんは他のご著作でも、日常の細部(たとえばペンとか)から世界の全体像を探りだそう暴きだそうとする型の考察を見せておられるように思いますが、『短歌ください』では、関心のあるホットな題材を投稿者にむかって投げることで「現代を生きる人々には題材を通して世界がどう見えるのか」を眺め、それをご自身の考えにフィードバックされているところがあるのではないか、という気がします。

そういう意味で興味深いのが、「ブラジャー」のお題でしょうか。
この『短歌ください』に登場するブラジャーのお題の話は、穂村さんの対談集の中にも話題が出ていました。
また、実はこのお題が登場する前に穂村さんとお話することがあったさい、「ブラジャーのことがなんだか気になる」とおっしゃっていたことがありました。何が気になるのか、そのときは具体的に聞くことはできませんでしたが。
おそらく「ブラジャー」というものを「短歌」という箱に入れて徹底的に観察することで、この世界の謎がほんの少し解明される可能性があると思われるために、気になるのではないでしょうか。
解明される謎とは、ひょっとしたら「男女の非対称性」についてかもしれないし、「隠すという行為に隠されたなにか」であるかもしれないし、あるいは「あの丸い形状や装飾性に投影された社会構造」なのかもしれません。

考えてみると、原始的な部族ではそもそも「胸を隠す」という習慣自体ありません。
なにであれ「隠す」という行為が発祥する原初の段階には、人間という存在そのもののなんらかの秘密が封じられているように思います。
また「隠す必要」について、機能面での理由が容易に想像できる「パンツ」より、「ブラジャー」のほうにより、文化の発達にともなって後天的に現れだした人間の精神性を感じるようでもあります。
原始的な部族においても「下」は早い段階で隠しはじめたはずですが、「上」を隠すという発想は、社会性がなんらかの段階を迎えたことによって生じたのでしょう。
その「段階」とは、いったい何なのか。

このように「短歌」というものは、どうも私たち人間の生きている世界の「謎」を、一度「箱(定型)」に閉じこめることによって、その「素材(言葉)」に封じられた「この世界の秘密を少し解放する」といった機能もあるようです。
短歌という詩型は、箱の内部でなんらかの物理現象を生じさせるさせるためのブラックボックスになっているようでもありますね。なんとも興味深いです。

また、どうやらさまざまな表現ジャンルは、上記にあげた「短歌のブラックボックス機能」のように(短歌の機能はこればかりではありませんが)、個々のジャンル独自の機能特性を持っているようなのです。
私の属するジャンルでいうなら、絵には絵の、絵本には絵本の、児童文学には児童文学の、それぞれ特徴的な機能特性があります。これはいわば、ジャンルそれ自体から「このジャンルが持つ機能特性を活用することで解明し得る “この世界の謎" を追究せよ」と要請されているかのような働きをみせるらしく感じています。

「目は目のやり方によって、鼻は鼻のやり方によって、口は口のやり方によって、それぞれに世界を感じる」
そのようなジャンルごとの機能差、役割の差があることを、近ごろ強く認識しはじめています。

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今回の絵は、金色など発色の強い色もいろいろ使っているので、いつかどこかで原画を飾りたいなと思っています。


 
 
posted by 草子 at 05:44| 本の仕事・著作