2009年04月06日

飲み会にて


ある飲み会の席のこと。
テーブルの上にごとりと美味しそうなエビチリの皿が運ばれて来た。
私の正面に座っていた豹柄の全身タイツを着たアッコちゃんは
それを見て「わあ」と小さな歓声をあげ、続けてこう言った。

「エビってさ、どうしたっておいしくなっちゃうよね。
あたしね、将来ビストロスマップにお呼ばれすることがあったら、
その時は『エビでおねがいします』って言うつもりでいるの」

それを聞いて私はギクっとした。
何故なら私も、アッコちゃんが言ったのと似たような事を
常日頃から考えていたのだ。
といっても私の場合は「ビストロスマップ」じゃなくて
とんねるずの「食わず嫌い王」にお呼ばれしたら……だったけれど。

私には食べ物の好き嫌いというものがほとんど無い。
けれど唯一、食べられない食材として
幼児期から長の年月私の中に君臨し続けるものがあり
それは「コーヒーゼリー」だった。
だから私が「食わず嫌い王」にお呼ばれした時の正解は当然
「コーヒーゼリーです」ということになる。
「好き派」の人が断然多い食べ物であるから、クイズの要素としては
もって来いの題材ではないかと思う。

しかし、問題がある。私はいつもこれに頭を悩ませている。

「食わず嫌い王」の番組を見た事がある人には分かると思うが
あの番組は二人の対戦者が、それぞれに三つの好物料理と
一つの嫌いな料理を順に食し、食べた時の微妙な表情やコメントから
何が「たった一つの嫌いな食べ物か」を探し当てるゲームだ。
ゲストはテレビ慣れした芸能人ばかりで
いざ「これが正解の嫌いな食べ物です!」というシーンに至ると、皆
「べえっ」といかにも不味そうな顔で、嫌いな食べ物を吐き出したり
「おえぇ」と大袈裟に目をむいたりする。
私はあの「べえっ」とか「おえぇ」といった派手な演技の部分。
あの部分を上手くこなせるかどうかについて、今一自信が無い。

あれはやっぱり、さすが芸能人リアクションと言ってよい
華麗なシーンなのだと思う。

しかし悩みというものは常に解消すべく努力せねばならないのが人間だ。
私は先般より、ティッシュを丸めて口の中に放り込んで
しばらくしたら「べえっ」「おえぇ」と不味そうに吐き出す
という演技の特訓をはじめた。
近頃ではなんとなく演技も上達してきて、いいラインに来てると思う。
湿って歯の裏にくっついたティッシュを、嫌そうな顔で
にちゃにちゃして取ろうとする所などは、微に入り細をうがつ演じぶり
といってよく、我ながら妙技の域ではないかと感じている。


それにしても……
と、私は正面に座っているアッコちゃんを見た。

(アッコちゃんってばどうして、豹柄の全身タイツなんか着ているんだろう)

そう、冒頭に述べた通り、アッコちゃんは今日
どういう訳か豹柄の全身タイツ着用なのである。

不思議に思ったけれど、口には出せなかった。
だって、耳はぴょこぴょこして可愛いし
長いシッポを時々首にくるりと巻き付けたりしておしゃれだし
豹柄の全身タイツは、アッコちゃんにとてもよく似合っていたのだ。
何故、などという問いは、この似合いぶりの前にはナンセンスかもしれない。

(可愛いなあ)

そう思いながらぼーっと眺めていると、アッコちゃんはおもむろに
顔面をエビチリのお皿の中にバチャッと浸けた。
そして手(いや、前足?)を使わずに、はぐはぐエビチリを食べ始めたのだ。
私はビックリしてまた、心の中だけで言った。

(アッコちゃん!ビストロスマップ出た時はお皿に顔浸けて食べちゃダメだよ)

何せテレビだからなあ、スマップだからなあ。
そう思ってるとアッコちゃんは、お皿に付いたソースも全部綺麗に舐めとって
ピカピカのお皿を私の方に見せ、にっこり笑顔になって言った。

「にゃあ」

私は、豹の鳴き声って「にゃあ」でいいのか、と思った。







 
posted by 草子 at 00:27| 作業風景